この度、社内公募企画「あなたが見つけた、介護における給料以外の価値って何ですか?」について、沢山のご応募ありがとうございました。
審査の結果、介護に対する思いを詩で表現されました常盤祥代さんの作品が大賞に選ばれましたので、ここにご報告いたします。金10万円をお贈りさせていただきます。
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常盤祥代
あなたはもう「ごめんね」と言わなくていい
あなたはもう「許してね」と言わなくていい
あなたの手首の渾身の上下運動や、あなたの瞼のかけがえのない瞬きで、
もっと色々なことを私に伝えてほしい
「庭の花が見たい」や
「演歌が聴きたい」や
晴れた日に、思い出の富士登山の話をしながら散歩することや
あなたがワクワクすることを、その尊い文字列で好きなだけ表現してほしい
その為に私がいるのだから
あなたはもう「ごめんね」と言わなくていい
あなたはもう「許してね」と言わなくていい
夜中、不安から解放され素敵な夢を見てぐっすり眠ってしまったことに
罪悪感など感じなくていい
雨上がりの午後にカフェに行き
おいしいコーヒーで一息つくことをためらわないでほしい
あなたがワクワクすることにこれからも挑戦し続けることを、諦めないでほしい
そして、今までと同じように、そのはじけるような笑顔で、愛する人に語りかけてほしい
その為に私がいるのだから
なぜ生きるのか、なぜ今ここにいるのか
分からなくなるとき、私はいつも思い出す
あなたの筋肉の一番力強い、その口角のなだらかなカーブを。
あなたはもう、「ごめんね」と言わなくていい
その代わりに、私はあなたに、「ありがとう」と伝えたい
あなたと、あなたの一番愛する人のその笑顔で、私はこの世界から許されて、
今日という一日を生き抜くのだから
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■この作品について、常盤さんより一言いただきました。
私にとって介護職とは、ご利用者様のお役に立てている仕事であると同時に、言葉や笑顔というものの大切さを実感させて頂ける学びの場です。私の担当させて頂いているご利用者様はALSで、人工呼吸器を付けているためお声が出ないので、「伝の心」というパソコンの文字入力装置を使って手首の上下運動で文字入力し、私に思いを伝えてくださるのですが、私を気遣って言葉をかけてくださることも多く、毎回ありがたい気持ちでいっぱいになります。
■常盤祥代プロフィール
1986年生まれ。様々な職を経験したが、子育てが一段落したのでずっとやりたかった介護職に転職。介護福祉士を目指している。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・■選考理由
介護・福祉の仕事に従事するにあたり、業務以上のエネルギーを満たす空気や、その場の気配を感じられる作品が多くありました。
現場で働く皆さんが「生きる」を支えるべく、微に入り細に入り、丁寧にお仕事をなさっておられる姿が目に浮かぶようで、審査員一同、胸が熱くなりました。
改めまして、今回応募いただいた皆様、ご応募したいと思ってくださった皆様、お忙しい中、本当にありがとうございました。
さて、今回大賞に選ばせていただいた常盤さんの詩に、とても大切なことが書かれておりました。
多くの方が「ありがとう」という言葉の尊さを述べられている中で、常盤さんは、「ごめんね、許してね」と言わなくていいと表現をされていることが、斬新でした。
「障がい、病気であること=申し訳ない」という価値観を、社会から蒸発させること。
一度に社会を変えることは難しいことかもしれませんが、障がいや病気を忘れられる、あっても気にしないでいられる一瞬、そんな時間が1分、1時間と延び、私とAさん、そして私の周り、と広げていくことをやめなければ、確実に優しい繋がりが広がっていき、やがて社会が当たり前としてその価値観を飲み込む…そんなことをこの詩から改めて感じられました。
常盤さんは、詩の締めくくりに、介護を受ける方に「ありがとう」と伝えたいとも表現されています。
私達は、あまりにも一方的に介護とは、と語りがちかもしれません。真面目に介護と向き合う中でうまれた、そのあまりにも自然で奥深い「ありがとう」。
そこに今回のテーマである「介護における給料以外の価値」を感じざるを得ませんでした。
こちらをもって大賞選考の理由とさせていただきます。